« 2008年04月 | メイン | 2008年06月 »
2008年05月26日
横浜院:阿部聖孝「麻酔の話」
今回は手術には欠かせない『麻酔』についてお話しさせて頂こうと思います。
麻酔に関しての疑問を、クイズ形式(Q&A方式)でお話ししてまいります。
【質問1】
お酒を飲む人は麻酔が効かないって、ウソorホント?
【答え】
半分はホントですが、全く正しいということではありません。
アルコールを常飲していると、体内にそれを分解する酵素(チトクロームP-450と呼ばれているタンパク質など)が増えていきます。それによってアルコールが速く分解されるため、若いころや初めはあまりお酒を飲めなかった人も、繰り返し飲んでいくうちにだんだんと強くなっていくワケです。このときにできる酵素は、アルコールだけでなく鎮静薬や睡眠薬なども分解してしまいます。麻酔科学ではこの現象を『酵素誘導』と言いますが、このことによってある種類の静脈麻酔薬が効きにくい体質になってしまいます。
しかし酵素誘導はすべての場合に起こるわけではありません。また局所麻酔薬や麻酔ガスによる全身麻酔薬の分解には、酵素誘導は直接関与しません。
従って、「アルコール常飲者は静脈麻酔に対して効きにくい傾向にある」と言うのが正解です。
健康のため、そして安全な麻酔を受けるためにも、飲みすぎには注意しましょう。(*^_^*)
【質問2】
次のうち実際に行なわれていた麻酔方法はどれでしょう?
(1)握手麻酔 (2)ゲンコツ麻酔 (3)首絞め麻酔
【答え】
正解は(2)のゲンコツ麻酔ですが、(3)も行われていたと言って良いでしょう。
医学書には、「麻酔の歴史上、手術を行なうために痛みを取る最も原始的な方法は『ゲンコツ麻酔』であり、殴って気を失わせてその間に手術をするという乱暴なものであった」と記されています。~引用文献:『手術室』メディカ出版~
また古代エジプトでは、頸動脈を圧迫して意識を失わせて手術を行なったと言われており、正式名称ではありませんが、(3)の首絞め麻酔も実在したと言えます。
尚この方法は、イタリアでは17世紀に至るまで行われていたそうです。麻酔の安全性が確立された現在ではとても考えられませんね。 (+o+)
【質問3】
美容外科でよく使われる『静脈麻酔』って、手術中は眠ってしまうから全身麻酔と同じなのかな? 全身麻酔と静脈麻酔ってどう違うの?
【答え】
さて静脈麻酔と全身麻酔ですが、両方とも意識が無い状態になるので、患者様にとっては同じような感覚になります。
麻酔科学的には厳密な意味での全身麻酔はガス麻酔のことで、のどの奥に呼吸のための管を通し、そこからガスを流して手術を行なうもので、手術中は完全に眠った状態になります。
これに対して静脈麻酔は、腕から点滴を取ってそこから液体の鎮静薬や鎮痛薬を流して手術を行ないます。点滴から流す薬液の量によって、ウトウト眠ってしまう程度の麻酔から、完全に眠ってしまう麻酔まで意識の状態をコントロールすることができます。
よく『私は全身麻酔で手術を受けたのだけど、途中で目が覚めて周りの話し声が聞こえた』ということをお聞きしますが、これは実は静脈麻酔だったと思われます。
一般的には手術の程度によって、大きな手術は全身麻酔、中程度の手術は静脈麻酔、小さな手術は局所麻酔で行なうことが多いのですが、実際にはこれに手術内容と患者様の状態を考慮して麻酔方法を決めていきます。(*_*)
手術を安全に行なうために麻酔は欠かせませんが、詳しくはリッツ美容外科公式ホームページの『麻酔』の項をご覧ください。
麻酔に対しての素朴な疑問や当院で行なっている麻酔方法がご理解頂けると思います。
→「麻酔」に関するメールカウンセリングはこちら
→「麻酔」に関する無料カウンセリング予約はこちら
2008年05月16日
横浜院:阿部聖孝「患者様からの教え」
美容外科に限らず一般保険診療でも、『患者様の訴えを聞く』事が大切であるのは言うまでもありません。この事を考えるときに自分に対しての啓蒙と反省の意味で、いつも思い出すことがあります。それは決して大きな事件ではなかったのですが、私にとっては忘れられない出来事でした。
今から6、7年前の事です。
ある患者様が数年前に他院で受けた二重手術(埋没法)の糸を取って欲しいと来院されました。外見上は問題が無いのですが、糸によるツッパリ感(自分だけが解る感覚的なモノ)が気になり、それを解消したい事が抜糸の理由でした。リッツに来られる前に、施術を受けたクリニックで一度抜糸をしたのですが、『まだ糸が残っている気がするので診てもらいたい』との事でした。
埋没法による二重手術の場合、手術よりも抜糸の方が難しいケースが多いのです。つまり、時間経過とともに糸は瞼の組織に深く迷入して、糸の色素も脱色され、元は青色(または黒色)の糸が釣り糸のように透明になってしまう場合があります。
今回のケースも手術による傷や盛り上がりも無く、斜め下を見たときに瞼の中央部に僅かに引き込まれる部分があるだけで、皮膚表面からは糸は全く確認できない御状態でした。
『もしかしたら、糸は深い位置に埋まってしまって取れないかもしれません。また既に取れている可能性も有り、部分的に癒着しているだけかもしれません。そうしたら抜糸を試みても症状が改善されない可能性が大きいですよ』と説明いたしましたが、
『その部分のツッパリ感から解放されたいので、ダメだったとしても取って欲しい』との強い御希望があったため、御本人から指摘して頂いた部分(僅かに凹む部分)の抜糸を試みました。
通常の場合、糸の結び玉さえ見つかれば、抜糸は1~2分で終了するのですが、5分、10分経過しても糸は全く確認できません。
埋没糸の抜糸で注意する点として、
(1)傷の大きさを最小限にする、(2)出血させない、(3)乱暴な操作による周囲組織の癒着を回避する事などがあります。
組織から出血させないように丁寧な操作を行ない、祈るような気持ちで少し(零コンマ何ミリか)ずつ深い層を探索していくと、約20分後に糸の結び玉らしき硬めの組織を発見しました。
先の細いピンセットでそれを牽引してみると、患者様から『あっ、今のところがツッパっているところです』との御指摘を頂きました。
ピンセットを離してしまうと糸はまた深く迷入してしまうので、つかんでいる部分がはずれないように慎重に切除すると、そこには確かに埋没法の糸が有りました。
その瞬間に『先生っ!楽になりました。ツッパリ感が無くなって、まばたきをしても全然感じが違います』と、長年の悩みが消えた事をお話しされました。
なにげない事では有りますが、自分にとってこの事実は衝撃的でした。
抜糸をする前は『数年前の手術だから、瞼の奥深くに埋まってしまっておそらく糸は取れないだろう。いや、もうすでに前のクリニックで糸は取れているのだが、単に癒着しているだけで御本人が気にしすぎなのではないだろうか』という先入観で手術をしてしまった事を猛省し、患者様の訴えには真摯な姿勢で話をお聞きし、誠意をもって対応させて頂くことの大切さをあらためて感じました。
その患者様は『ありがとうございました』と笑顔でお帰りになりましたが、本当にありがとうございましたと申し上げたいのは私の方でした。
固定観念や先入観にとらわれずに素直な気持ちで正確に物事を判断するという、医師にとって大切な事を教えて頂いた事に感謝するとともに、この気持ちを忘れる事がないようにこれからも美容外科診療を続けていきたいと思います。