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2009年10月23日

研修医シリーズ 聞きまつがい

今回のお話は、単なる聞き間違いです。

私たちが、学生の時代は、医学はとうにドイツ語から英語の時代になっていました。
病名なども、全て英語で習いましたが、世間ではまだまだ、和製ドイツ語を使っている病院が、たくさんあります。
カルテやクランケ(患者を指すこの単語は、本国ドイツでも使われないそうですが)、ステる(患者さんが亡くなること)などは、今でも、この国では広く使われています。

初めて一人で当直をすることになった日の出来事です。
心配した院長が、
「今日は、私も病院にいますから、何かあったら呼んでください。」
と言って下さいました。不安と緊張感が、少しだけ和らぎました。

夜中に、突然、わき腹が痛くなった男性が、担ぎこまれてきました。
かなりの痛がり様で、体をくねらせ、脂汗をたらたらと流していました。
慎重に診察した後、院長に来てもらいました。
「緊急に、手術をしないといけない状態ではないと思います。今から、血液検査、お腹のレントゲン、お腹のエコー検査をしようと思います。」
と、報告しました。
院長が到着したときには、この男性は、なぜだか分かりませんが、痛みがかなりなくなってきた様子でした。
院長は、自分も診察した後
「そうですね、緊急性はなさそうです。軽く痛み止めを使って、今、君が言った検査は、明日の朝からでいいでしょう。」
そう言って引き上げていきました。帰りぎわ、なにやらナースに追加の検査の指示を出していきました。
カルテには、尿沈さ(さは、さんずいに査。おしっこを遠心分離機にかけ、底に溜った物を顕微鏡で見る検査)の支持がありました。
私も、絶飲食と、点滴の指示を追加し、そのまま寝ました。

そのまま、起こされることもなく、朝を迎えました。
真っ先に、その男性の部屋へと向かいました。
彼は、ニコニコしながらベッドに座り、家族に買ってきてもらったと言う、パンと牛乳を口にしていました。
「何で飯食ってるの?」
ナースに問いかけました。
すると、あれから点滴を始めたとたんに、おしっこが出て、痛みがなくなったとのこと。
その尿を沈さに回し、院長を呼んで結果を見てもらったら、もう何を食べても良いと、指示が出たとのこと。
顕微鏡も、朝までその状態にしたままで、私にも見るようにとも、指示がありました。

私は、すぐに顕微鏡を覗き込みました。
「わっ!何じゃこりゃ!」
顕微鏡の視野いっぱいに、赤血球の塊がありました。こんなの見たことありませんでした。
しかし、すぐに私にも診断がつきました。尿路結石です。
この病気は、腎臓にできた小さな結石が、何かの拍子で流れ出し、膀胱まで落ちる間に、途中の尿管で引っかかったりすると、腎臓が腫れ、尿管を傷つけ、激痛や、血尿を生じます。
結石が、膀胱まで流れ落ちてしまえば、痛みはすぐに消えます。
わが国では、25人に一人が、一生の間に発症する、ポピュラーな疾患です。

この、尿路結石のことを、この病院では、「Nieren Stein」(ニーレン・シュタイン)と呼んでいました。
つまり、ドイツ語で、「腎臓の石」と言う意味です。
当然、私はまだこの単語を知りませんでした。

院長が、私にこういいました。
「どうやら、あの患者はニーレン・シュタインだったようですね。」
私は、こう聞き間違いをしてしまいました。

「えっ?入院したいんですか?(ニュウインシタインですか?)」
「そうそう」
院長は、聞き間違いに気がつきません。
周りのナースが、くすくす笑っていました。院長は、私に
「午前中に、君が指示を出した検査で、問題なければ、午後にでも退院させてください。
 それから、この病気は、まだ腎臓に石が残っていると再発すること、水分補給をしっかりすること、
 尿酸値の高い人は、石ができやすいので、食生活のことなど、いまから勉強して、
 きちんと指導をしてあげて下さい。」
そういって去っていきました。
私は、腑に落ちずに、
「入院したいのに、どうして、もう退院でいいの?」
などと、ぶつぶつ言いながら、その日、一日を悶々と過ごしました。

その後、幾度となく、尿路結石の患者さんに遭遇しましたが、その都度、この病院のナースたちは、私に耳元でささやきかけるのでした。
「先生、ニュウインシタインじゃないの?」

このいじめ?は、私がこの病院を去るまで続きました。
ひょっとすると、今でも語り草になっているかも・・・・恥ずかしい。

投稿者 morita1967 : 14:16 | コメント (0)