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2009年11月26日
研修医シリーズ ガーゼオーマ①
最近は、医療現場を舞台にしたドラマが、切れ目なくオンエアーされ、ガーゼオーマ(手術の際、体内に取り残された、ガーゼの意味)と言う言葉も、すっかり一般の方にも定着しました。
今回のお話は、そのガーゼオーマが巻き起こした、ある出来事についてのお話です。このエピソードに、私の出番はありません。ただの傍観者です。
ある日、私の勤務していた病院に、近郊の中規模の病院から、80代の男性が救急搬送されてきました。男性には、女性の内科研修医が付き添ってきました。
状況はこうです。男性は、この日、自転車で転倒し、腹部にダメージを受けました。脾臓に裂け目ができ、腹腔内にかなりの出血があり、血圧も低下してきたため緊急手術が必要と診断されました。
ところが、この男性は、かたくなに、私の勤務していた病院での治療を希望され、搬送されたとのことでした。
外科の詰め所に女医が案内され、召集された、手のあいている外科医たちにプレゼンを始めました。
女医が、シャウカステンにCT画像の掲示を始めたとたん、外科医たちの視線は、一点に集中しました。中には、思わず「あっ」と声を上げるものや、その一点を指差すものもいました。
CT画像には、患者の心臓の裏から、胃の上部までを占める、メロン大の物体が写っています。一目で、ガーゼの塊だと、外科医全員が気付きました。しかも、ただ事ではない大きさです。
女医は、淡々と説明を続けています。
「この、脾臓の裏に、大きな血腫があります。開腹して、脾臓を摘出するか、こちらでは、カテーテルでエンボリも可能かと思います・・・」
でも、誰も真剣に聞いていません。誰かが質問しました。
「この塊、なんだか分かりますか?」
「それなんですけど、なんだかよくわからないのですが、今回の出血とはあまり関係ないかと・・・」
女医は、ガーゼに気づいていませんでした。おそらく、まだ、ガーゼオーマの経験がなかったからでしょう。と、言うことは、まだ、患者にも、家族にも、この事実は告げられていないということになります。
外科部長が、遅れてやってきました。ニコニコしながら、なにやら珍しい症例なのかな?などと言いながら、興味津津でCTを覗き込みました。彼も、見た瞬間に異変に気づきました。
「こら!!、外せッ外せッ!!」と言って、CT画像をシャウカステンから剥ぎ取りました。
「誰かに見られたらどうするんだ!」
「誰の症例だ!?お前か?お前か?」みんなの顔を睨み付けました。
彼は、てっきり、うちで手術をした患者が、手術中に置き忘れたガーゼのことを、よその病院で指摘され、怒鳴り込んできたのだと、勘違いしていたのでしょう。
外科部長に、状況を理解してもらったところで、過去のこの患者のカルテが出てきました。
主治医の欄に、半年ほど前に、この病院に赴任してきた、T医師の名前がありました。十数年前に、T医師は、この病院で研修医をしていました。この男性は、その当時の患者さんです。
すぐに呼びつけられたT医師は、カルテの表紙を見るなり、中身も見ずに、このときの状況を朗々と話し始めました。
「爺さん、まだ生きてたんですね・・・」
つづく
投稿者 morita1967 : 2009年11月26日 13:43