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2010年03月15日

研修医シリーズ ん??おじいちゃん?

外科になりたての一年目に、あまりの忙しさに、よく走って病棟間を行き来していました。
すると、指導医の先生に、こう諭されました。
医者は、走ってはいけない。走ると、走っていることに気をとられて、行き着いた先で、とっさの判断ができなくなる。早歩きでもいいから、歩いて行くと、その間に、真っ先に何をするべきかを、思考する時間ができ、適切な処置ができる。そもそも走っていくと、息が上がってしまい、すぐには頭が働かない、と。
なるほど、理にかなっている、と思いました。

それ以降、どんな緊急事態でも、できるだけ歩いて移動するように心がけていましたが、走ってしまったことが、3回だけあります。

1回目は、右腕切断の患者が病院に担ぎ込まれ、医者が自分しかいなかったとき。
廊下に赤いペンキでもまき散らかしたかのような、おびただしい出血を見たとき、とっさに走り出しました。
2回目は、受け持ちの術後の患者が、心配停止になったとき。このときは、そういった事態が起こる事は、事前に十分予想されていましたが、後々のことを考え、真っ先に走って駆けつけたという事実を残そうと言う、ある種のパフォーマンスでした。

そして、3回目が今回のお話です。

それは、土曜の夜の当直開けの、日曜の朝の出来事でした。

頭のケガの外来患者の、縫合処置を、処置室でしていたところ、結核病棟から連絡が入りました。
昨夜、入院してきた患者さんが、突然、心配停止になったので、至急来てほしいとのことでした。

この縫合処置が終われば、当直が空ける私は、
「こういったときは、一般当直ではなく、ICUの当直医を呼ぶ決まりなので、そうしてください。」
といって、断りましたが、電話の向こうの混乱ぶりを察した、ベテランナースは、
「結核病棟は、かなり混乱しているみたいです。決まりごとなんて、どうでもいいですから、すぐに行ってあげてください。ここは、他の研修医に任せますから。」
そういって、私をせかしました。

しょうがないなあ、と思いながら、いやいや、結核病棟に向かって歩き始めた私の背中に、また、このベテランナースがこう、追い打ちをかけます。
「先生、走っていった方が、いいみたいですよ!」
ははーん、コリャなんか訳ありだな、と察した私は、走って結核病棟に向かいました。

結核病棟の担当の呼吸器内科は、そのていたらくぶりで、院内でも有名でした。何かあったときに、すぐに駆けつけられる当番も、作っていなかったようです。

結核病棟に到着しました。
「ここは、感染病棟だから、ガウンと帽子とマスクを着用しないといけないのだろう?」と聞くと、
「そんなことどうでもいいから、すぐに、こっちです!」と、その患者の病室に案内されました。
患者さんは、カーテンで四方を仕切られたベッドに、横たわっていました。心拍が停止してから、それほど時間は経っていなかったようです。

病棟の主任が説明します。

この患者は、結核の再燃と寛解を繰り返し、何度も入退院をしている高齢の方でした。昨夜は、肺炎を起こし、緊急入院となったそうです。何があってもおかしくはない状況なのに、主治医からは、患者の家族に対して、そんな差し迫った状況だとの説明が、全く行われていないとの事でした。

急に今、亡くなったりしたら、後々、患者の家族との間で、事がこじれることは間違いないので、今は何とか、一旦蘇生させてほしい。と懇願されました。

こんな状況、実は、私、大好きです。ほとんどの医者は、そうだと思います。
目いっぱい、低く渋い声で言いました。
「分かった、任せなさい!」 実は、私、この台詞も大好きです。よく使います。俄然、やる気が出てきました。


つづく

投稿者 morita1967 : 2010年03月15日 10:16

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