
日の朝、1時間ほど近所をジョギングする。酒井倫明院長の頭に手術のアイデアが浮かぶのは、たいていそんなときだ。1つの手術が決まると、約1週間前から構想を立てて頭の中でシミュレーションをする。すでに外科医として20年の経験があるが、その準備は怠らない。そして確立された術式があったとしても満足することはなく、もっとすぐれた方法があるのではないかと模索する。すべては、手術の完成度を高めるためだ。
「手術のことは、いつも頭にあります。僕は天才じゃないから、いきなり手術はできません。だから事前に頭の中で準備をします。それさえしておけば、失敗はないんです。一般的な二重まぶたや鼻形成の手術でも、全く同じ手術というのはありません。シミュレーションもするし、新しいアイデアが浮かべば解剖学書などで確認したうえで、取り入れていきます。そうして生まれたオリジナルの術式は、10種類くらいあるんですよ」
井形成外科では、形成外科、美容外科、美容皮膚科を標榜している。美容だけを専門とするクリニックが多いなかで、形成外科も掲げているのは異質かもしれない。けれども大学病院では、形成外科の中に、事故の傷跡や生まれながらの奇形を治療する再建外科もあれば、美容外科もある。酒井院長にとっては、形成外科も美容外科も同じこと。2つを掲げることは、当たり前なのだ。
「形成外科の基本的な技術があってこそ、はじめて美容への応用がきくものです。熱傷やそれ以外の外傷、小児の奇形など形成外科で扱うすべての治療をマスターしてからではないと、完璧な美容外科の手術はできないはずなのです」
井院長は、昭和大学医学部形成外科の非常勤講師という顔も持つ。若手医師たちには、美容外科の魅力を「医学の中で唯一芸術的であること」と伝えている。
「かつての外科手術は、病巣を切除するということに焦点が当てられていました。技術が進歩した現在は、術後の生活の質を高めるために、いかに切除した部分を再建するか、ということが重視されています。小腸で膀胱を作ったり、胃で食道を作ったり…。ただ、上手く再建できたとしても全体像は見られないし、それが人の目に触れることはありません。その点美容外科は、手術の成果をまるで作品のように、見ることができます。それがやりがいにつながるのではないでしょうか」

とはいえ、美しさは主観的なものなので、美容外科では患者の要望に応えることが一番となる。難しい要望も多いが、そんなときは徹底的に話をして、機能を損なわない範囲で患者の希望を叶える努力をする。
「解剖学的な話もさせていただくので、僕のところへ来るとうっとうしい話が多いかもしれません(笑)。それは手術の大小に関係なく、たとえば保険診療でできるホクロの切除に関しても、いつごろ抜糸して傷がどのように変化していくのか、考えられるトラブルなどをこと細かく説明して書面でもお渡しします。患者さんには納得して、手術を受けていただきたいのです」
医療では、患者に治療内容について十分に説明し、同意を得る“インフォームド・コンセント”は常識になりつつある。手術になる場合は主治医のほか助手や看護師も同席し、患者やその家族に術中のビデオや写真を見せながらできるだけ詳しく説明をする。酒井院長がこうしたインフォームド・コンセントを重視するのは、手術をするということはたとえ美容目的であっても患者の命を預かることでもある、という意識があるからだ。
の責任感は、勤務時間外にも及ぶ。毎朝筋トレを30分間、休日はボクササイズとヨガ、ダンベルを組み合わせた「クロストレーニング」を50分間というメニューを加える。さらに1時間のジョギングというのが全メニューだ。
「手術中に僕が死んだら、患者さんはどうなりますか?それは極端ではありますけど、責任ある立場にいる者として、健康管理は当たり前のことだと思っています」
トレーニングのほかに休日にすることといえば、家でDVDを観るくらいという酒井院長。若いころは、腕時計や車の趣味もあり、あらゆるアウトドアスポーツをしてきたそうです。
しかし「今は腕時計を買うなら電気メス、車を買うならレーザーが欲しいし、サーフィンに行くなら国際学会へ行くほうがいいですね。」



